轟課長
英社員

英太郎のひとりごと episode11 Part-1

本題に入る前の長い前置き

 こんにちは、英太郎です。
 私が初めてマンガに登場したepisode9では”額面通り受取る”を、episode10では“曖昧な指示はわからない”を中心にストーリーが展開されました。
 “額面通り受取る”は、「それはいわゆるKY(空気読めない)ね」と、表現を変えて桜坂さんが、“曖昧な指示はわからない”は轟さんがASD(アスペルガー障がい)の特性だとして紹介しています。

 

 手元にある専門書によると“額面通り受取る”“曖昧な指示はわからない”も、ASD(アスペルガー障がい)のすべてではないにしても、かなり多くのひとに見られる非常に多様な周辺的な特性のうちの二つだそうです。
周辺的な特性ですから、現れ方は人により異なったり強かったり弱かったりするそうです。

 

 「現れ方が人によって異なったり強かったり弱かったりする、曖昧なASDの周辺的特性をなぜ最初に主題にしたのだ。ASDを読者にわかりやすく説明するのなら、ASDの中核的特性を最初に持ってくるべきではないか!」と、マンガやこのエッセイをお読みになっている方からは、お叱りを受ける虞(おそれ)があるだろうと、いかに空気が読めないと言われる強度ASDの私でも感じるところがあります。
とりあえず求釈明申立です。周辺的特性を採りあげた理由を説明させてください。

 

 前述したように、周辺的特性の現れ方は人によって異なったり強かったり弱かったりします。いろいろな現れ方がある中で、私の周辺的特性の現れ方———ざっくばらんに言えば私がやらかした言動———をepisode9と10で自己紹介かたがた最初に採り上げました。

 

 ASDを理解していただく順番として、
まず、お読みいただいている方々に、「ほう?ASDって、こんなヤツなんだ。」と気にかけていただく。さらに砕けた言い方をすれば、最初は笑いや微笑ましい今風な言い方をすればキャッチーなエピソードで、発達障がいのASDという目に見えない障がいに対する忌避感や生理的な嫌悪感や恐怖感を薄めてもらう。
そして、ASDやASDの傾向のある人は身近な存在であると感じていただく。

 

 続いてepisodeを重ねるごとに紹介する、ASDの私の頭の中で起こる、所謂ふつうの人達が理解に苦しむであろう、ASD独特の意識の動きやものの考え方の特徴を紹介して興味を持っていただく。
そうして興味を持っていただければ、爾後、陸続するであろう私の理解に基づく“くだくだしい”ASDの障がい特性の説明にも、お読みいただく方は飽かず継続して耳を傾けていただけるであろうと考えました。
 これが周辺的特性を最初に取り上げた理由です。

 

《轟さんの感想》

 と、ここまで書いてきたところで中間報告として我が上司轟さんにエッセイの内容を伝えたところ「いつの時代の文章だよ。」とのコメントが返ってきました。
当該箇所は次の部分です。
「爾後、陸続するであろう私の理解に基づく“くだくだしい”ASDの障がい特性の説明にも、お読みいただく方は飽かず継続して耳を傾けていただけるであろう」

 

 轟さんは笑顔を浮かべてコメントしていたので、このエッセイに対する特段の注文も方向性を変えるために何とかしようと言う意図もなく、ポンと頭に浮かんだ感想を述べただけだと思います。
続いて轟さんは「読む人のことを考えなければ、(私は)若い頃ライティング教室に行ったことがあり、そこで最初に習ったのは読者が読みたいものを書くことだ、所謂“売文”だ。」と言いました。
(轟さんの言葉を要約しています。)

 

 さてここで、読んでいる方からは『おい英、「ASDはノンバーバルコミュニケーションが苦手だから話し手の表情なんて分からないし、マルチタスクが苦手だから、話し手の表情に意識を向けると話の内容が頭に入らない」と過去に書いているではないか、なぜ轟さんの気持ちがわかるんだ』と、疑問をぶつけられそうなので、その理由を先に———求釈明のなかにさらに求釈明で論点がずれることをご容赦ください———説明します。
結論を言うと、ASDだって相手の表情やそれに含まれる感情は分かります。

 

 矛盾していると指摘されそうなので、表情やそれに含まれる感情が分かることを少し極端な例を出して説明します。
たとえば月齢で年齢を数えるくらいの赤ちゃんがむずがって泣きだしたとします。赤ちゃんの母親だったらもっと詳しく赤ちゃんの気持ち判断できるのだと思います。
でも、ASDだって泣き出した理由は
 ①お腹がすいた
 ②目が覚めたら誰もいなくて寂しい→母親か誰か来い
 ③オムツが汚れて不快だ
 ④どこか具合が悪い
 ⑤暇だ
くらいだろうとの判断はできます。つまり、泣いているということは自分の今の不愉快な状況を愉快な状況に変えてほしいのだろうと想像できます。

 

 ASDは子どもの頃から周りの大人のようすを見て学習します。主に親、学校や塾の先生のようすです。そして頭の中に大人の表情分類のテンプレートを作ります。テンプレートを説明しておきましょう。分類のための「ひな形」というと辞書のようですから、入ってきてデータの分類をしたり複製したりするための「元ネタ」と言い換えてもいいでしょう。この場合の入ってくるデータとは、当然周りの大人の表情です。

 

 私の頭の中の作業を具体的にいえば、ほとんどの場合相手が話し始めた瞬間の表情を頭に焼き付け、この表情は笑顔、つまり機嫌がよい、あの表情は怒り、つまり私の———今やっている言動、あるいは過去の言動、もしくはこれからやろうとすることなど———言動について何か言いたいことがあるのだろうと判断する基準とします。
 年齢が上がれば少し複雑な表情判別のテンプレートも作れます。悲しみや憂い顔などです。親から怒られて叱責を受ける回数が多いですから、怒りに伴う声や口調も表情と一緒にさらに詳細なテンプレートを作り、表情とそれに伴う感情を分類します。

 

 こんな学習を繰り返しますから、ASDはテンプレートに従った顔の表情の分類で話し手のストレートな感情は判断できます。
しかし笑顔の裏に隠された悪意、古い表現をすれば「衣の下の鎧や袈裟の下に鎧が見える」みたいなものや、話しながら徐々に変わっていく感情———激していったり悲しみに沈みこんだり———などは、よほど極端で激しい変化でない限りテンプレートに引っかからないので、全く分かりません。

 

 衣の下の鎧がわからない流れを具体的に説明します。
私はいつも、写真に撮るように相手が話し始めたときの表情を写し取り頭に送り込み、テンプレートに照らし合わせて相手の気持ちを判断しています。
その後は話を理解することで手一杯ですから、たとえ話し手の顔を眺めていても表情の変化にはなかなか気が付きません。話の切れ目に相手の顔をあらためて見直して、表情が大きく変わっていれば、その表情を写し撮り頭に送りテンプレートと照らし合わせて判断します。表情の変化に気が付かなければそれまでです。
 ですから、正しく相手の気持ちを判断できたか否かについては甚だ不安が残ることが常です。しかし、相手の気持ちの判断に頭のエネルギーを費やすと、話の理解が進まなくなるので、力づくでその不安を打ち消します。

 

 相手の表情が見えない電話では、話し手の口調や声の大きさで怒っていることは分かります。しかし、怒っている理由は相手が具体的に箇条書きで時系列に沿って行ってくれないと分かりません。
 怒っている理由が分かっても、ASDは「ああそうですか、それが理由ですか。」で終わってしまいます。何をどうしてくれと具体的に言われなければ、何をしていいか一切頭の中に浮かびません。ただ黙って相手の話が終わるのを待つだけです。
 表情で相手の感情がわかる話を続けると長くなるし———既にここまでで文字数はおよそ3,200です、轟さんに長すぎる、読者のことを考えろと言われそうなので———今回のテーマと大きく離れてしまうので、感情がわかることについてはここまでにします。
何れ稿を改めて(episode13を予定)説明します。

 

 話しを元に戻しましょう。私は轟さんの感想を聞いてから、どうもペンの進みが悪くなってしまいました。
 Part2でペンの進みが悪くなった理由を考察します。

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