英太郎のひとりごとepisode12 幸先不安な健康診断Part-1(後半)
シングルフォーカスと健康診断
マンガに描かれている健康診断の私のエピソードはすべて事実です。嘘も誇張もありません。健康診断を途中で抜けるのはまだ良いほうです。受付で順番を待つうちに耐えられなくなって帰ると申し出たり、健康診断を受診するクリニックのあるビルの入り口で踵《きびす》を返したりで受診せずで、ずいぶんと会社や保健師さんに手間をかけています。
今回は一丸さんと待ち合わせた手前、健康診断の会場までは渋々ついて行ったものの、わくわくソワソワで受付にかわいい看護師さんがいたらと浮足立つ一丸さんに、私は言葉を失いました。
マンガをお読みになった読者諸賢は、なぜそこまで英太郎は健康診断が嫌なのだ、我慢が足らないのでは?と強い疑問を持つでしょう。
疑問に対する私の回答は一つです。「健康診断に耐えられない(我慢できない)苦痛を覚え、その場から一刻も早く立ち去りたいから。」です。
轟さんは、私がそこまで苦痛を覚えるのは、病院に対する一種のフォビアがあるのではないかと私に疑問を投げかけます。
(英語ではphobia恐怖症、特定のある一つのものに対して、心理学的および生理学的に異常な恐怖を感じる症状)
私が3歳のころです。夜中に突然40度超の発熱で瘧《おこり》のように震え、心配になった両親が病院に担ぎ込みました。熱に浮かされる状態でも診察室でイヤだイヤだと大暴れしたそうです。
当直の先生に「でぶっ!あっち行け!」と大声を張り上げ、続けて3歳児とは思えないほどの語彙で悪口雑言をわめき散らし診察台の上で暴れ、両親と看護師さんで私を押さえつけて何とか注射をしたことがあったそうです。
急性肺炎だったそうです。全く記憶がなく母親の話だけなのですが‥。
母親はことあるごとに「あんなに恥ずかしかったことはない」と、嫌味っぽく口にしていました。 私にはこの件以外の病院の武勇伝?はどう振り返っても見つかりません。おそらく病院フォビアの原因ではないと思います。ただし、心療内科の治療を受ければ、何かの力で記憶の底に鎮めている病院フォビアを発見できるかもしれません。
さて、マンガに戻りましょう。マンガの健康診断では、ロッカールームでの私の空嘔吐《からえず》きのようすが描写されています。漫画家さんから私にネーム原稿が届いたとき、実際はこんな生易しいものじゃないと注文を付けたくなるほどの嘔吐反射が、題材とした健康診断の際は複数回ありました。
続いてマンガにあるように、心療内科に相談が必要なのでは?と思えるほどの不定愁訴が現れました。
マンガの題材になった健康診断以外でも、上に書いたような自分の意思とは関係なく起こる反応は現れます。不定愁訴は健康診断の当日突然ではなく、数日前から起きることもあります。また身体的な反応だけではなくメンタルの不調も同様に数日前から起きることがあります。
このような体やメンタルの不調を抱えつつ当日、何とか健康診断の会場まで出向いても、結句、前述のように受付の混雑で耐えられなくなったり、ビルの入り口で踵を返してしまったりしてしまうのです。
健康診断を耐えられない苦痛と感じ始めると、マンガで轟さんが言うように、物事を多重的・並列的に考えられないシングルレイヤー思考特性が発動します。
「何とかして耐えられない苦痛から逃れたい」の一心、つまりシングルレイヤー思考特性の発動で、会社の体面や健康診断をサボることによる自分の評価など、どこかに行ってしまい意識の中から消え失せます。
実際に逃げるようにして健康診断会場を後にしてタクシーに飛び乗ると、今までの不調は雲散霧消し何事もなかったようにスッキリしてしまいます。
不調が無くなってもまだシングルレイヤー思考特性は続いていますから、会社の体面や健康診断をサボることによる自分の評価などは消えたままですし、それらは会社に戻っても意識の端にも出てきやしません。
会社に戻り、なぜ早く戻ったかと問われても、もしくは厳しい上司から詰問されようとも、悪びれることも臆することもなく「体調が悪かったから。」と答えるだけです。過去に私はそのようにしています。
何しろ、シングルレイヤー思考特性の発動で「何とかしてこの場から逃れたい。」から「安心できる場所に戻れた。ヤッター!」と、状況好転、大成功くらいにしか考えていないからです。
悪いことに(本人はそう思っていませんが‥)健康診断逃れが一種の成功体験として頭の中にファイリングされると、シングルレイヤー思考特性は収まります。
そして、「また新たに健康診断に行けとの指示が来るだろうなあ、気が進まない。
と独り言ちるのが関の山です。
紙幅も迫ってきました。続きはPART-2にて