轟課長
英社員

英太郎のひとりごと episode12 幸先不安な健康診断 Part-3 (上)

<ASDが生きるための自己防衛・べき論>
 以前私はこのエッセイで、私のようなASDは「べき論」で生きていると書きました。
 べき論にはハンドルの遊びのように、少し幅(バッファ)があります。
 〇〇はこうあるべきと言い切ろうとも、いつも全く同じでなくとも、〇〇あるべきにある程度までの幅を持たせることで、行動予定や見通しが多少ずれても不安やイライラや、ましてやパニックや問題行動を未然に防ぐことができるからです。

 本田先生のASDの特性説明の、「自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという本能的特性」を治したり弱めたり、意識でコントロールして一定期間だけ排除したりなんてことは、天地がひっくり返ってもできるはずもないことです。
 発達障がいの自閉症スペクトラムに含まれるASDは、生まれつきの脳の機能の障がいですから、無理にでも治そうなんて考えること自体が、私はもしかしたら人権侵害にあたるような気がしています。

 ただし、社会生活を安寧に送るためのASD当事者側の努力として、自分の関心、やり方、ペースの維持に幅を持たせることを私は学びました。
 別の稿で説明予定のハイコントラスト思考特性でゼロか100かで判断するのではなく、物事には何にでも多少のずれはあると認めることです。
 このような考え方が、上記したハンドルの遊びのように少し幅(バッファ)に通じます。

 最優先したい自分の関心、やり方、ペースの維持は、私の頭の中では「べき論」に置き変わっています。
 例えば、私が朝の出社時の挨拶は〇〇すべきとべき論を作っていても、そのべき論に幅を持たせていれば、全員が全員、私の考える兵隊さんのような挨拶をしなくても、態々 《わざわざ 》咎《とが》め立てせず、ある程度までは受け入れられるとの考え方です。

 この「べき論」を、轟さんは「ASDが生きるための方便」だと言います。実に上手い表現と感心しています。

 閑話休題、これも「べき論」です。
 たとえば会社の会議です。会議のアジェンダが決まっていれば、議論の方法や方向に乱れがあろうとも、会議は〇〇であるべきのべき論に前もって自分で幅を持たせていますから十分対応できます。アジェンダが分かっていますから自分の発言も前もって準備できますし、会議のベクトルはアジェンダで定まっていますから、会議の流れを乱すような突拍子もない場違いな発現をする恐れもなくなり、私のようなASDでも安心して会議に臨めます。

 アジェンダの明確でない会議、業務報告や進捗状況の報告、情報共有のための会議———実にこれらの会議と称する集まりが多い———これらは私には恐怖です。
 自由闊達な発言を許すとは言い得て妙かもしれませんが、アジェンダがないから会議の方向性も定まらず、それぞれがそれぞれに発言します。すると、私には誰がどのような発言をして誰が答えて、誰が言葉の途中で意見を挟んだのか‥。
 お手上げです。誰が何を言っているのかわからなくなり、会議の方向も見通すことができず苦痛に満ちた状況に置かれてしまいます。 

 

<耐え難いぞ!健康診断> 

 健康診断に話を戻しましょう。健康診断自体はアジェンダの明確な会議と同じですね、「やることも方向も」決まっています。
 健康診断のうち、べき論の幅の範囲内にあるものは凌《しの》ぐことができるということです。言い換えれば前述の「私はこれを知っています」の範囲は対応可能です。

 ただし、決まっている「やることも方向も」とは、私の健康診断のべき論に入っている検査項目と検査内容の2つだけです。
 決まっていて分かっていることに対しては臨機応変に ——— とはいっても健常者と比べれば挙動不審に見えるかもしれません ——— ある程度対応可能です。

 つまり、検査項目と検査内容以外の行動については、見通しを立てることが出来ない状況に置かれます。
 具体的に言うと、検査項目と検査内容以外の行動に見通しが立たない状況では、自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという本能的志向特性がいやが応でも優先されてしまうということです。本能的なものというくらいですから、自分の意識でコントロールすること能《あた》わずです。

 そして、発動した自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという本能的志向を否定する健康診断のべき論の範疇外の事項は、私にとって耐えがたい苦痛となって私の意識を苛みます。
 私以外のASD者も同様に感じているか否かは文献にもないので分かりません。
他のASD者も傾向は同じではであろうとの希望(違うんじゃないか?)を持っています。
 健康診断を受診し、気付いた時には「体には不定愁訴が現れ、メンタルも乱れ、どうしても我慢できない。苦痛解消はこの場から逃れることだ!」との考えが頭に浮かぶと同時に、シングルレイヤー思考特性が爆発的に発動しています。
 

 いくつのもコントロール不能な自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという本能的志向特性の否定が重なり、ついに健康診断の峻拒《しゅんきょ》を選択してしまいます。シングルレイヤー思考特性の発動です。苦痛から逃れることしか考えられなくなり会社のことなど意識から消えます。

 

続きはPARTー3(中)にて

 

  • Twitter
  • Facebook