轟課長
英社員

英太郎のひとりごと Episode9 Part-1

 こんにちは、英太郎です。マンガ「ハーティ推進室の日常」もepisode9となり、やっと私が登場する場面となりました。episode9以降は、しばらくの間、私を中心にストーリーが展開し、ASDの特性について説明する内容になります。
 マンガをお読みいただく方々が、「いくら何でも」や「誇張が過ぎるんじゃないの」等々と感じることがあったとしても、マンガに表現しやすくするために設定を変えたりはすることはあっても、実際に私がやってしまったことをマンガ化しただけで、すべて事実がもとになっています。
 episode9で轟さんは私のことを「自閉症スペクトラムのアスペルガー症候群、端的言えば知的障がいのない自閉症」と一丸さんに説明しています。それに続き以前episode7でも書いた自閉症の三つ組み、社会性の障がい、コミュニケーションの障がい、想像力の障がいを挙げています。
このエッセイを読んでいる方にとっては、今さら感が強い内容ですね。
 ではここで、定型発達の人にはおそらく想像できないだろうと思う、アスペルガー症候群ASD(私のことです)のものの捉え方を、具体例を挙げて説明したいと思います。例えば次の問いにあなたはどう答えますか?

牛乳を買ってきてください。卵があれば6個買ってきてください。

 お使いを頼まれたとして、問と言うより依頼に対して具体的にどのような行動をとればよいのでしょうか。私のとる行動は次の通りです。
 ①牛乳を買ってこいが依頼内容ですからスーパーかコンビニに行きます。
 ②卵が商品棚にあることを確認して
 ③牛乳を6個買います。
 このとき私の頭に湧きおこる疑問は、先ず牛乳なのに「6個」とは単位がおかしいです。しかし、今時の牛乳は瓶ではなく紙パックで売られていますから、単位は「個」でも誤りではないのだろうと自分を無理やり納得させます。
 次に牛乳パックの大きさです、過去に買っている牛乳が1ℓパックのみならば、その延長として、何の迷いもなく1ℓパックを選びます。買う度に容量が異なっている場合は依頼主に容量の確認をします。
 そして、牛乳1ℓを6パックとは随分と量が多いなあ、何に使うんだろう?の三つです。牛乳の容量を確認して、必要なパックの容量が500㎖や200㎖だったら、買うのは500㎖×6、200㎖×6のどちらかですから、「おかしな買い方をするもんだ」が疑問に加わります。
 ここまで読んできた方は、おそらく「英太郎よ、お前は何をしたいんだ?」と疑問を持っていると思います。

 「牛乳を買ってきてください。卵があれば6個買ってきてください。」の出どころは「プログラマーの夫に買い物を頼んだら」というアメリカンジョークです。ちょっと長いのですが引用します。日本語訳は私です。

A wife asks her husband, a programmer, “Could you please go shopping for me and buy one carton of milk, and if they have eggs, get 6!”
妻がプログラマーの夫に頼みました。「買い物にいって牛乳を1つ買ってきてね。もし卵があったら6つお願い。」

A short time later the husband comes back with 6 cartons of milk and his wife asks, “Why did you buy 6 cartons of milk?”
しばらくして夫が牛乳を6つ抱えて帰って来たので、妻は「なんで牛乳を6つも買ってきたの?」とききました。

He replies, “They had eggs.”
彼は答えました。「卵があったから。」

 先に挙げた日本語と比較すると英語の方が直截的なので、牛乳を6つ買ってくる理由が分かりやすいですね。以下の部分です。しかし、どう頭をひねっても
“buy one carton of milk, and if they have eggs, get 6!”は、もし卵があったら(牛乳を)6つ買うという、牛乳を買うための条件としか私には読めません。
牛乳を買うための条件こそが、私が読者の方々に説明したい核心部分です。

轟さんの意見

 今回のエッセイを書くにあたり、「牛乳を買ってきてください。卵があれば6個買ってきてください。」にどのように答えるか、轟さんに聞いてみました。
当然のように轟さんは「牛乳を買って、もし卵を売っていたら卵を6個買う」とえました。さらに、卵を売っているか、いないかの店側の事情で買う側の牛乳の数が変わることはあり得ないから、「牛乳を買って、もし卵を売っていたら卵を6個買う」以外の回答はないんだそうです。
また、轟さんはプログラミングで使われる「If~then~else」という条件分岐の理解が定型とASDでは違っているのがよくわかるとも言ってました。
 条件分岐とは、「もし(If)○○だったら(then)××し、もし(If)○○でなかったら(else)□□しろ」というような、ある条件により次に続く行動を振り分ける処理のことです。
それでは、アメリカンジョークに戻り「If~then~else」の条件分岐で妻と夫の言い分を整理してみましょう。

妻の要望をプログラムに置き換えます。
 卵を売っている場合です。
 ①If they have eggs(条件:卵を売っていれば)
 ↓
 ②Yes, they have eggs(条件成立:卵を売っている)
 ↓then
 ③Buy 1 carton of milk, Buy 6 eggs(牛乳1パックと卵を6個買う)End If(終)
 
 卵を売っていない場合は
 ①If they have eggs(条件:卵を売っていれば)
 ↓
 ②No, they don’t have eggs(条件不成立:卵を売っていない)
 ↓else
 ③Buy 1 carton of milk (牛乳を1パック個買う) End If(終)
 
次に夫の頭の中のプログラムです。
 卵を売っている場合です。
 ①If they have eggs(条件:卵を売っていれば)
 ↓
 ②Yes, they have eggs(条件成立:卵を売っている)
 ↓then
 ③Buy 6 carton of milk (牛乳を6パック買う) End If(終)
 
 卵を売っていない場合は
 ①If they have eggs(条件:卵を売っていれば)
 ↓
 ②No, they don’t have eggs(条件不成立:卵を売っていない)
 ↓else
 ③Buy 1 carton of milk (牛乳を1パック個買う) End If(終)

妻の要望を図式化します。

夫の頭の中を図式化します。

 私の理解はプログラマーの夫と同じです。それに加えて先に書いた疑問を持ちながらも、卵を売っていればノコノコと牛乳を6つ抱えて帰って来るでしょう。
 ところが定型の人は違うようです。彼らに言わせると、曖昧な日本語だろうが直截的な英語だろうが、「牛乳を1つ買い、もし卵が売っていたら卵を6個買う」が正しい行動だそうです。ASDの私にはプログラマーの夫と同様に、どう考えようにも「牛乳を買いに店に行き、もし卵がその店にあったら牛乳を6つ買う」としか理解できません。
 例えば「1ℓの牛乳を1本買ってきてください、ついでに、もし卵を売っていたら卵も6個買ってきてください」と言われれば、私も定型の人と同じ行動をとれるでしょう。
「1ℓ、ついでに、もし、卵を売っていたら」と明確な条件分岐があるので、売っていなければ卵を買わないと判断できます。このように明確に指示されれば、ASDは定型の人から見たおかしな行動は起こさないでしょう。しかし、「牛乳を1つ買い、もし卵が売っていたら牛乳を6個買う」としか理解できない私には、定型の人が正しいと言う妻の要望の条件分岐に沿う行動とることが、どうにも気持ち悪いのです。怖気をふるうような不快感が足元から体を這いあがってくるようで、イヤでたまりません。
 「牛乳を買ってきてください。卵があれば6個買ってきてください。」としか言われていないのに、定型の人の頭の中では「(普段買っているのが1ℓの牛乳だから1ℓの)牛乳を1本買ってきてください、ついでに、もし卵を売っていたら卵も6個買ってきてください」に変換されるのか、不思議でならないのです。
以下、part-2に続きます。

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